もう誰も貴方のことを

 

 

 

 

 

「せめて、ダンスを好きになりたい」

 

 

 

 

 

 

これは今日までずっと私の頭の中にしつこく染み付いて、決して拭うことのできなかった神宮寺くんの言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神宮寺くんは本当に弱音を吐かない人だ。今日まで数年間彼のことを見てきたけれど、彼のしたマイナスな発言はほとんど思い当たらない。インタビュアー側の誘導で答えていたことは何度かあったけれど、自ら発したことは本当に無い。「これが苦手」「ここがコンプレックス」「これが辛かった」そんなストレートな言葉は恐らく目にしたことがない。

 

 

 

 そしてそれは私達ファンだけでなく、メンバーにとっても同じなようで。

 

 

 

舞台中でも「疲れた」とか「眠い」って言ってるのを聞いたことがない

 

ふだんジンがどうやってストレスを吐き出しているのかわからないんだよ。あれだけ感情を表に出してないと、家に帰ったら物とか壊してるんじゃないかって心配になるもん(笑)っていうくらい、ジンが荒れている姿を見ない。

 

 

 

1番近くにいるメンバーですらこうだなんて。彼の徹底っぷりは私の想像を遥かに超えていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな神宮寺くんが4年前、冒頭の言葉を口にした。

 

 

 

 

 

私にとってはとてつもない衝撃だった。自分の弱さを見せることを極端に嫌う神宮寺くんにとって、精一杯の叫びであるように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が神宮寺くんのファンになったのは、少クラのとあるパフォーマンスの動画を目にしたことがきっかけだった。もともと存在は知っていたけれど、彼が歌って踊る姿を見たのはそれが初めてだった。ステージに立つ5人の男の子は皆凄くカッコよくて「ジャニーズJr.ってこんなにクオリティ高いんだ…」と衝撃を受けたのを今でも覚えている。中でも1人、一際私の目を惹きつけた人がいた。

 

 

 

 

それが神宮寺勇太だった。

 

 

 

 

 その曲は彼のソロパートから始まった。甘ったるい歌声に吸い寄せられるように、カメラは突然彼のアップに切り替わって。その瞬間を「待ってました」とでも言うかのように自信に満ち溢れた目でカメラを捉え、歌詞に合わせて指を動かしこちらを挑発してきた。曲が始まってたった10秒。私はもう既にアイドル神宮寺勇太の虜になっていた。わざと目線を外したり、かと思えば目を合わせてきたり。ニヤッと笑いながら首をかしげたり、無邪気にニカーっと笑ったり。カメラを捉える度にコロコロ変わる彼の表情から私は目が離せなくなった。

 

 

 

 

  それから彼の出ている動画をひたすら漁った。どの曲を見ても、彼は大抵ステージの真ん中にいた。きっとその圧倒的な存在感やパフォーマンスの華やかさが評価されて彼はこの場所を任されているのだと、ジャニーズ初心者だった私ですら確信できた。

 

 

 

 

  神宮寺くんはとにかくどんな時でも100%カッコつけていた。これ見よがしにポッケに手を突っ込んだり、カメラに抜かれる瞬間を見計らってジャケットをはだけて肩を出したり。その目はいつも何のためらいもなくカメラを捉えていて。彼の溢れ出る自信とキラキラオーラに私はすっかり夢中だった。

 

 

 

 

 あまりに夢中だったから、彼がダンスを課題にしていることに暫く気がつかなかった。勿論私にとっては神宮寺くんの歌とダンスが一番。でも私がそれをどんなに巧みに主張しても、「自担フィルターがかかっているから」と片付けられてしまうだけ。「もっと上手なJr.なんて他に沢山いるじゃない」と言われた時、当時の私は言い返す言葉を見つけることができなかった。

 

 

 

 

 だけど、彼は他のJr.には無い卓越したアイドルセンスと圧倒的なオーラを持っていた。運や奇跡なんてそんな曖昧なものではない。そのアイドルとしての実力が評価され、ステージに求められ続けてきたことは揺るぎない事実だと私は確信していた。

 

 

 

 

 「彼の放つ誰にも負けないカッコよさやオーラはダンスや歌とは別のところにあるのだから。私のように彼に惹かれる人にだけわかればそれで十分じゃないか。」こうも思った。

 

 

 

 

 でもやっぱり悔しいものは悔しかった。彼のパフォーマンスの実力が、ダンスや歌のスキルだけで測られてしまうのがどうしても悔しかった。悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は冒頭の言葉を目にすることになる。繰り返しになってしまうが、神宮寺くんは本当に自分の弱さを人前で見せることを嫌う人だ。初めて挑戦することに対しては「自信がある」といつも断言するし、大変そうな時ほど「こんな時間も楽しい」と言う人だ。そんな彼の弱気な発言を私は耳にしてしまった。本当ならばいつも通り隠しておきたかったであろう言葉を受け取ってしまった。なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまったような感じがした。神宮寺くんが完璧に貫いてきた美学に小さな穴が開いてしまったような気がして苦しかった。

 

 

 

 

 でも何よりもショックだったのは、神宮寺くんのアイドル活動の中に「好き」と思えないことが存在する、と知ってしまったことだった。

 

 

 

 

 神宮寺くんは10年前、ジャニーズアイドルに憧れて自らの手で履歴書を出した。小さい頃の将来の夢は?との質問には「ジャニーズに入ること」と解答し、なぜここまでアイドルを続けてこられたのか?と問われた時には力強い眼差しで「好きだからです」と即答する、そんな彼が大好きで。どこまでもを“アイドル”という職業を愛し楽しんでいる神宮寺勇太に私は心の底から惹かれていた。

 

 

 

 

 だから彼にとって「好き」でないことが存在すると知った時、私の敬愛する“神宮寺勇太のアイドル像”に小さな亀裂が入ってしまった気がして、それが物凄く苦しくて。当時の私は聞かなかったふりをして、心の奥底にしまっておこうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、私は気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

神宮寺くんは「ダンスが苦手」とは決して言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 「まずは好きになりたい」と言う言葉を選ぶなんて、なんとも神宮寺くんらしいじゃないか。何事も好きになって、楽しみながらこなす。いつもそうだった。

 

 

 

 

 

 

 彼は苦手だなんて意地でも言わなかった。意地でも認めなかった。いつも通り、ポジティブに向き合おうとしていた。やっぱりどこまでも私の大好きな神宮寺勇太だった。

 

 

 

 

 

 だから私も、意地でも言葉にしないと決めた。「神宮寺くんダンスは苦手だからさ、」なんて失礼な発言は死んでもしないと誓った。だって本人が言っていないのだから。本人が言っていないのに、私が勝手に評価することじゃない。得意か苦手か、それは彼だけが決められること。彼は認めなかった。だから、神宮寺くんはダンスが苦手なんかじゃない。いつか彼が心からダンスを「好きだ」と言える日が来ることを信じて、私は彼のことを応援し続けると決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のファンになってから数年間、色々なコンサートに足を運んだ。そこで確信したことがある。それは、神宮寺くんが見えないところでコツコツと確実に努力していることだ。新たなコンサートに行く度に、彼のダンスは必ずレベルアップしていて。直接的な言葉こそほとんどなかったけれど、彼が一生懸命練習を積み重ねていることはパフォーマンスを見ればすぐにわかった。一歩一歩の歩幅はそれほど大きくなかったかもしれない。私たち神宮寺担しか気がつかない程度だったかもしれない。それでも彼は着実に階段を登り続けていた。休むことなくずっと。とにかくずっと。どんどん上達していく神宮寺くんのダンスを見るのはとっても楽しくて。新しいコンサートに行く度にその成長っぷりに感動するのが私の恒例になっていた。

 

 

 

 

 

 

 こうして一つ一つの仕事に真摯に取り組み努力することを決して怠らなかった彼は、見事CDデビューの切符を掴み取ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 デビューしてからも神宮寺くんの成長が滞ることは決してなく、寧ろそのスピードは以前より明らかに加速していった。多忙なスケジュールの一体どの時間をつかって練習しているのだろう…と思わず考え込んでしまうくらい、彼の成長は凄まじかった。

 

 

 

 

 ああ神宮寺くんは本気なんだな、と私はすぐに確信した。勿論、彼が本気でなかった瞬間なんて今日まで一度たりともない。でもデビューしてからの彼にはこれまで見てきた中でも最高の熱量を感じた。そういえばJr.時代、まだ全く先が見えない時期にも関わらず「デビューという最初に抱いた夢は曲げたくない。その夢がスタート地点で、ゴールではない」と断言していたことを思い出した。デビューという夢を叶えた彼は、とっくに次の夢に向かってスタートしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてついに。デビューから暫くして出演したラジオの中で、彼の口からずっとずっと待ち望んでいた言葉を私は聞くことができた。

 

 

 

 

 

「ダンスが最近好きになってきました」

 

 

 

 

 

 やっと聞けた。この言葉をずっとずっと待っていた。

 

 

 

 

 

 神宮寺くんはやってのけた。やっぱり私たちには決して見せようとはしなかったけれど、誰よりも熱いアイドル魂とひたむきな努力で乗り越えてみせた。私が勝手に負っていた傷を、彼は癒してくれた。神宮寺くんを好きになってよかった。ファンになれて本当によかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた2020年3月25日。Premium Music 2020という歌番組内で初披露された新曲『Mazy Night』。

 

 

 

 

 

 King & Princeの歴代シングルの中でも史上最高のダンスナンバー。その中の大事なダンスパートで、神宮寺くんは颯爽と最前列に躍り出た。

 

 

 

 

 

 今までずっと、それはもうずっと、ダンスパートでは当たり前のように後列にされていたのに。魅せ場の最もいい位置を、彼はついに任された。

 

 

 

 

 

 難易度の高い振り付けを次々とこなしてゆく神宮寺くん。ジャニーズの中でも屈指のダンスレベルを誇る他のメンバーと、彼は確かに同じレベルに立ってパフォーマンスしていた。そのクオリティの高さに一瞬目を疑ってしまった程だった。息を飲むような2分半。気がつくとパフォーマンスは終わっていて、私は大粒の涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 私は彼がダンスを好きになってくれればそれだけでもう十分だ、と思っていた。でも彼はそんなことでは決して満足していなかった。私が想像していたより何十倍も、何百倍も上の景色を彼は見せてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神宮寺くん、やったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日この日まで、貴方は一度も「ダンスが苦手」とは認めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう認める必要がなくなったね。

 

 

 

 

 

 

 

 カッコいい。貴方は本当にカッコいい人。そういうところが大好きで堪らないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年前、ステージに立つ貴方を初めて見た日の私にMazy Nightを踊る姿を見せたら、それはもう信じられないくらい驚くだろうなあ。あの頃の貴方を知るすべての人に、見せて回りたいくらいだよ。「私の応援する人は、こんなにカッコいいダンスを踊れるようになったんです!」って。

 

 

 

 

 

 

 

 でもそのカメラを捉える真っ直ぐな眼差しと、溢れ出る自信に満ちた輝きは、あの頃と全く変わっていなくて。貴方の“このステージ上で俺が一番カッコいいでしょ?だから俺のことを見なよ”とでも言わんばかりのキラキラオーラに、私は今もまだ夢中なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう誰も、貴方のことを「ダンスが下手」だなんてきっと言わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神宮寺くん、貴方は世界で一番輝くアイドルです。私の大好きな、自慢の自担です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方のファンになったおかげで、かけがえのない幸福な体験をさせて貰えたよ。ダンスを「好き」になることを諦めないでくれてありがとう。今日までずっと笑顔でステージに立ち続けてくれてありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからもずっと、誰よりもアイドルを愛し、楽しむ貴方でいてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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